人口減・高齢化の日本で空き家が急増
- uhyoshi-yami
- 2016年5月9日
- 読了時間: 4分
13年時点で820万戸 売ることも貸すこともできず、もはや「お荷物」
洗濯物が干されていれば人が住んでいる家、なければ空き家。時おり老人の姿が一人二人見えるだけで、町全体がひっそりとしており、子どもの声も聞こえなかった。ある路地では人よりもネコの方が多かった。住民の一人(63)は「人がいなくて今では自治会の会合も開かれない。遊びに来た孫たちに『ゾンビ村』と言われる」と地域の現状を語った。
6日午前、神奈川県横須賀市の汐入町。山のすそ野に150軒ほどの戸建て住宅が集まっている。遠目には平和な住宅街のように見えるが、歩いてみるとあちこちの路地に空き家がたくさんあった。雑草が生い茂る庭に壊れた植木鉢が転がっていたり、曲がった扉の隙間からほこりをかぶった家財道具が見えたりする家が、ざっと数えただけで20軒ほど。そのうち1軒のポストから郵便物を取り出してみると、消印は一昨年のものだった。隣家の人が「老夫婦が住んでいたが、2年前に東京に住む長男の家に引っ越してからは空き家になっている」と教えてくれた。
空き家が日本で社会問題となっている。総務省によると、2013年時点で住宅総数6063万戸のうち820万戸が空き家だった。このままいけば、23年には1000万戸、33年には2000万戸を超え、およそ3戸に1戸が空き家になるとの予測もある。原因は人口減少と高齢化による住宅需要の減少だ。地方に暮らしていた80-90代の両親が他界した後、大都市に住む子どもたちが故郷に戻らず、そのまま放置されている家が増え続けている。売ろうにも買い手がおらず、貸そうにも借り手がいないのだ。
1980年代から90年代にかけて、東京や大阪など大都市の郊外のベッドタウンには多くの人が住んでいた。汐入町の住民たちは「この町も昔は人があふれていたのに、今は子どもの家に引っ越したり老人ホームに入ったりする人は多くても、外から引っ越してくる人はほとんどない」と話している。
日本は一般的に湿度が高く地震が頻繁な上、木造住宅が多い。そのため、数年ほど人が住まなかっただけで、いつ柱や屋根が崩壊するか分からない危険な状態になる。空き家はもはや財産ではなく、社会全体が片付けねばならない「ごみ」だ。台風が来れば空き家の瓦が飛び、隣家などが被害を受けることもある。
日本政府は苦心の末、昨年5月に空き家対策特別措置法を全面施行し、放置されて倒壊の危険がある空き家を自治体が一定の手続きを経て強制撤去できるようにした。だが、これでは根本的な解決にはならないと指摘される。自治体が所有者を探し出して撤去費用を負担させるのは簡単ではないためだ。横須賀市・建築指導課の係長は「市役所が行政で一番頭を痛めているのが空き家の処理。撤去費用は1軒あたり最大150万円ほどかかるが、費用の回収率はごくわずか」と内情を語った。
空き家が増えれば、その家だけでなく周辺地域の価値も下がる。人口減少が原因のため、リフォームや再開発といった短期的な対策も効果はあまり期待できない。このままいけば、将来的には不動産価格が全国的に下がる「住宅価格のメルトダウン(暴落)」もあり得るというのが専門家の警告だ。シンガポール国立大学不動産研究センターの清水千弘教授は、日本の住宅価格この先30年、毎年2%ずつ下落すると分析している。20年後には住宅価格が半分ほどになるということだ。
こうした状況は特に中年の人たちにとって大きな負担となる。引退を前に売ることもできない家を相続した揚げ句、相続税や固定資産税の支払いに苦しむことになりかねないためだ。自治体や非営利団体に空き家を寄付しようとしても、財産価値がなければ「申し訳ないが結構です」と断られる。そのまま放置すれば隣人に迷惑になるだけでなく、自治体に強制撤去された上で費用を請求されかねない。
そんな中、空き家の管理サービスも登場している。自治体による強制撤去に至らないよう、月5000-1万円の料金で「最低限の管理」をするものだ。汐入町のある住民(77)は「持ち家はもはや幸福ではなく、お荷物のようだ」と語った。
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