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【コラム】「金正日の料理人」が語る言葉の軽さ

  • uhyoshi-yami
  • 2016年5月9日
  • 読了時間: 4分

 『金正日(キム・ジョンイル)の料理人』という著書で知られる藤本健二氏を2010年12月にソウルで取材したことがある。金正日総書記が死去する1年前のことだ。1989年から金正日氏の専属料理人だったという藤本氏は、次男の金正哲(キム・ジョンチョル)氏や三男の金正恩(ジョンウン)第1書記の遊び相手でもあった。藤本氏は「金正日総書記は幹部たちの前で『正哲は気が弱くて女のようだが、正恩は男らしい』とよく口にしていた。早くから正恩氏を後継者として考えていたようだ」という趣旨の内容を同書で明らかにしている。北朝鮮の権力は藤本氏の予想通り金総書記から金正恩氏に引き継がれた。これほどの内容を語れるのであれば、藤本氏は間違いなく第1級の情報源と言えるだろう。

 金正恩氏に関する巷の情報は8割が本当かどうかわからない。単なるうわさレベルのものが多く、確認の取りようがない。しかし藤本氏は本当に金正恩氏についてよく知っているように生々しく語ることができた。藤本氏によると、金正恩氏は15歳の時からジョニーウォーカーの最高級品を愛飲し、また藤本氏と2人だけでイブサンローランのたばこをよく吸っていたという。金正恩氏が「わたしはこんなにうまいものばかり食べて暮らしているが、人民はどのように暮らしているのか」と藤本氏に尋ねたことがあるそうだ。このような話も単なる作り話には聞こえなかった。

 藤本氏にはじめて会った時、記者は少しとまどった。暗いロビーで頭には頭巾をかぶり、真っ黒なサングラスをかけていたからだ。誰がみても一目で藤本氏とわかるくらい目立っていたが、それでも藤本氏は「北朝鮮の情報関係者に尾行されるので、いつもこんな格好をしている」と語った。記者は「それならサングラスを取ったらどうか」とつい口にしそうになった。自宅の場所も秘密だそうで、名刺にはオフィスの住所しか書いていなかった。言っていることとやっていることが何か一致しないように感じた。

2001年に「食材を買うため日本に行ってきます」と言って日本に逃げ帰った藤本氏だが、それでも金正恩氏については、誰かに監視されているわけでもないのに必ず「大将同志」「将軍」などの尊称を使う。インタビューの中でも「金正恩氏は指導者としての器がある。彼が北朝鮮人民の暮らしをよくすると期待している」といった内容をよく語った。記者は「この男は金正恩氏に『いつの日かまた会いたい』というシグナルを送っている」と感じた。

 その後、金正恩氏は藤本氏を何度か北朝鮮に呼んだ。幼い頃口にしたまぐろの寿司が忘れられないというエピソードも聞こえてきた。しかし記者が目の当たりにした藤本氏は、それほど料理の味にうるさいようには感じられなかった。2010年、インタビューが終わった直後、彼は記者を夕食に誘った。案内人は「藤本氏は味覚にうるさいので、辛い韓国料理は好きではない。高級ホテルの日本料理店に行こう」と言ってきた。しかし閉店時間が近かったので、記者はその言葉を無視して藤本氏を近くの海鮮チゲ屋に連れて行った。辛いだけでなく、おそらく味の素のような人口調味料が大量に入った海鮮チゲだ。藤本氏は妻ではないが同棲中という中年女性とともにこの海鮮チゲを残さず食べ、最後はご飯を入れて汁まで平らげた。金正日親子の口を魅了したという藤本氏の味覚がこれほど安っぽいものだったのか。辛さで汗をかいた藤本氏は、身の安全のためといっていた頭巾も脱いでしまった。

 このようにどこか脇が甘く、態度も雑でこっけいでもある藤本氏を通じ、金正恩氏は先月「わたしは戦争を起こすつもりはない。米国の圧力に怒って核実験を行いミサイルを発射した」というメッセージを送ってきた。金正日一家の秘密を暴露したとして有名になった藤本氏だが、今は金正恩氏の代弁者になりつつある。これも藤本氏の言葉を額面通り受け止めてはならない理由の一つだ。

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